週に1回、半年間通っていた歯周病の治療が終わり、引き続き定期的に歯石や歯垢と取ってもらっていても、歯周病が再発することがあります。それは、目には見えない歯の根元に歯周病の原因菌が残っていたからかも。歯周病の再発を防ぐためには、口腔内のむし歯や歯周病の原因菌を除菌することが有効です。しかも、健康保険による歯周病治療より短期間に終了します。
海岸歯科室
森本哲郎(もりもとてつろう)
東京都出身 東京歯科大学卒業 「トータルヘルスプログラム」のお話を伺った森本氏は、同じ時期から同じ期間通院している同い年の患者でも、口腔内の状態が異なることに課題を見出し、誰もが歯を失わない歯科医療を求めて、総合的、根本的な治療法とメンテナンスを追及している。"美しさ"を備えた提案を行っている。
・ 日本歯周病学会会員 ・ 歯科総合医療研究会会員ほか
むし歯は、その原因菌が発生させる酸によって歯の表面のエナメル質からカルシウムやリンが溶け出す病気です。酸に侵された部分を削って詰め物で塞ぐという治療法だけでは、病原菌が残るので、再発するリスクを抱えたままといえます。歯周病でも同様で、原因菌を完全に駆除し切れていないと再発リスクとなります。歯周病治療では原因菌が“住み着いている”歯石や歯垢を除去していきますが、歯周ポケットの奥の見えにくいところにある歯石、歯垢を取りこぼすこともあるでしょう。肺炎や結核などの感染症では原因菌を駆除する抗生剤を医師の指示なしに服用をやめてはいけません。症状が治まったとしても、原因菌が体内に残っている可能性があります。抗生剤の服用をやめれば、残った原因菌がまた増えていくからです。むし歯や歯周病も原因菌は完全に駆逐しておかなければ、再発リスクが残ります。また、再感染への対応も必要になります。
原因菌を徹底的に駆除する治療法の1つに、「トータルヘルスプログラム」があります。しかも、歯茎を切開しないため患者さんの身体にかかる負担は最小限です。また、保険診療による歯周病治療は週に1回の割合で6カ月程度の期間(約24回)通院し続けますが、6~8回の通院で終了するので通院の負担も少なくなります。「トータルヘルスプログラム」では、緊急性を要する場合を除いてむし歯や歯周病にかかった原因を検査、診断してから治療に入ります。原因菌に感染、増殖した経緯を明らかにして、その対策を立てなければ再発リスクを解消できないからです。この検査には、「唾液検査」、「細菌検査」、「口臭検査」などがあります。それぞれ、むし歯や歯周病の原因菌の存在やその増殖力の強さなどを調べます。「歯周病精密検査」は歯周ポケットの深さなどを正確に調べます。以上の検査結果を元に治療計画を立てます。治療ではまず、歯石や歯垢を取り除きます。「トータルヘルスプログラム」を提供している歯科診療所の歯科衛生士は高い技術を持っているので、目では確認できない歯周ポケットの奥にある歯石でも適切な方向から適切な力加減で除去用の器具を差し入れて、手に伝わる感触を頼りに取ることができます。その後、マウスピースを使って抗生剤を歯や歯茎、歯周ポケットに送り込み、善玉菌を含めたあらゆる菌を口腔内から駆除します。原因菌を除菌するため歯茎の回復が速くなります。これが短期間で治療が終了する理由です。
歯茎が健康な状態になれば、歯周ポケットもなくなり、原因菌が歯根に到達しにくくなります。また、唾液には原因菌の増殖を防ぐ抗菌作用があるので、歯周病などが進行しにくくなります。治療が終了した後は、歯磨きなどの口腔内のセルフメンテナンスの指導や、唾液の抗菌作用を弱めない生活習慣の指導などを行います。例えば、「よく噛んで食べる」、「適度な運動と十分な睡眠を心がける」、「ストレスをためない」、「血管を収縮させるたばこは吸わない」などです。「トータルヘルスプログラム」は保険診療外ですが、むし歯や歯周病の再発による再治療や生活上の不便さを考えると、結果としてコストセービングな方法といえるでしょう。
「トータルヘルスプログラム」の検査と治療
唾液検査などは検査コストを抑えるために、外部の検査会社に依頼せずクリニック内で行い、患者さんの治療費負担を抑えている。
細菌検査に用いる位相差顕微鏡。無染色、非侵襲的に検査できて、菌の活動性も調べることができる。
歯垢や歯石を完全に取り去るには、経験を積んだ歯科衛生士の高い技術が不可欠だ。
Point
歯科特有の薬剤による治療法
たとえば肺炎は、肺炎球菌などに感染すると発病します。このような感染症かかったら原因菌を調べて、それに効く抗生剤を使って撃退します。実はむし歯や歯周病も感染症です。それなら、同じように抗生剤で治療するのが有効です。しかも原因菌は歯の回りにいるので直接薬剤を着けることができます。その方法はマウスピースに薬剤を塗って歯や歯茎に当てること。虫刺されや筋肉痛の薬の塗り方に似ています。
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